艶笑譚 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 炉辺談話
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 昔、ある所(どご)に仲のいい爺さまと婆さまがいだんだって。ある朝まのごど、婆さまが囲炉裏(いろり)で火起ごししてだら、爺さまが起ぎで来て、火さ当だったそうだね。婆さまは、爺さまがちんちん(金玉
)突ん出してるの見で、 とごろが、隣りの爺さまは、婆さまが木尻で股(まった)広げでるの見で、 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
これぞまさしく『炉辺談話』。 私はこの一話で、岸川洋子さんの『茅葺(かやぶき)東京』をまた捲ることになりました。するとどうでしょう。『縁起の歌』の仲のいい爺さまと婆さまがそこに居たのです。コケの生えた、脳ミソのしわのような三和土(たたき)。現役の釜やかまど。オカラで磨かれた大黒柱。継ぎ接ぎだらけの足袋。ベルト代わりのへこ帯。草をむしるいざり姿。作業がし易いように曲がった腰。縁側での一服。来客への土下座のような挨拶。そして、お二人に接する人たちの笑顔。写 真集の中では囲炉裏はなく、すでにこたつが使われていたようですが、心の通い合った者同士が交わす四方山話『炉辺談話』がいつもそこで飛び交っていたのでしょう。
かつて、映画監督のヴィム・ヴェンダースは写真を撮ることについてこう言っていました。「写真は時間の行為だ。写真は時間から何かを引きずり出し、自分の流れそのものを変えてしまう。写真は常に二重の映像だ。カメラはとらえたものを写 しとめると同時に、写真を撮った瞬間のカメラマンの姿をも画面に映し込んでしまう」と。そうです『茅葺東京』も『モスクワでの写真』も、その中には岸川さん自身が写し込まれていたのです。それをみる人はきっと岸川さんと『炉辺談話』を交わすことになるでしょう。
*木尻(きじり)…炉端の下座 ★参照…『民話みちのく艶笑譚・第2集』(佐々木徳夫著・ひかり書房) |
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