艶笑譚 ◆◆◆◆ すらっとがはっと
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ある泥棒が目星つけでだ家(え)さ、うまぐ入ったんだど。泥棒も勘があるらしくて、暗がりでもそれなりの物いだだいで、帰(け)んべどしたど。 とごろが、その泥棒ぁ、方向音痴だったど見えで、暗がりだし焦(あせ)ってっから、入(へ)った所(どご)、そごは出口だべ、その出口が分がんなくて、そっち開げだり、こっち開げだりしてるうぢに、蚊帳(かや)つってあって、女中部屋だべな、あねこ(女中)が寝でだんだど。小腹へってだどごだがら、飯(めし)にでもありつければ願ってもねえなど思ってだどごろ、帰り際(しな)に、それ以上の御馳走(ごっつおう)が眼の前(めえ)にある。「据膳食わぬ は男の恥」っていうがな、そうっと布団さもぐってったど。 あねこは夢見でるような感じだったんだべな。されるままにしてだつが、男の物入れだれば、さすがに気付いで、 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
これは『みやぎ艶笑風流譚』(佐々木徳夫著・無明舎)に収められている『据膳食わぬは』という一話です。 じわじわと、そしてなかなか勿体ぶった前半部分に対して、最後の落ちの、なんとスピード感のあることか。肝心な部分をさらりと言ってのける未練の無さに、私は最高級のセンスを感じてしまいます。このように流れが次第に早まる組み立て方は艶笑譚の典型とも言えるものです。それはまるで男女の営みのようですね。 説明のし過ぎや強調は、往々にしてそのスピードを落とし、流れを遮ることにもなります。多少の説明不足はかえって想像をかき立てるものです。カラー写真よりもモノクロの方が奥にある何かをさらに感じさせてくれるのと同じです。 艶笑譚のおもしろさは、シュールなことをさも当たり前のように、さらりと言ってのけるところにありますが、もうひとつ、この一話にもあるような肝心なところでのスピード感も大切な要素となっています。そしてそれは受け取り側にも影響を与え、すらっと受け流し、がはっとひと笑いで済ませるだけの潔(いさぎよ)さを持たせてくれるのです。
すらっとがはっと済ませてくださいね。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ある家(え)の姑(しゅうど)お母(が)さんが乾穴(ほすあな)(室(むろ))さ頭突っ込んで、冬囲いの野菜出ししてだど。そごさ聟殿が来て、姿格好がらすっかり女房(おがだ)だど思ったんだべな。捲(まぐ)り上げで入れだら、 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
★参照…『みちのく「艶笑・昔話」探訪記』、『みやぎ艶笑風流譚』(共に佐々木徳夫著・無明舎出版) |
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