変わりつつある島、田代島 ◆◆◆◆

生きた自然に驚かされる

 

 あくる日、思わしくない空模様の下、田代島一周を試みることにしました。宿を出て満福寺というお寺の辺りで写真を撮っていると、後ろから『なにが珍すいもんでもあんの?』と、ウワッパリにホッカブリ、軍手、長靴という出で立ちのおばあちゃん。籠をしょい、野良仕事に出かけるとのこと。後ろから写 真を撮っている隙に見えなくなりそうなおばあちゃんの後、けもの道を追いかけます。しかしその足取りは速く、山道になれない私は不覚にもおばあちゃんを見失ってしまいました。森の中に取り残された私は、まわりの状況に異様なものを感じました。そこはまるでジャングルだったのです。入り組んで高く茂ったタブの木に、蔓やシダ、そしてこの辺が北限と言われるシュロがさらにそのムードを高めています。

 三石から島の西側へとまわります。この辺りは海を見下ろす峠道で、吹き上げる風に木々の枝は葉も少なく、山側に向かって伸びています。少し濃いめに漂ったモヤと相まって夢幻の世界を呈しています。水と木と薄い光と風、まるで山水画のようです。

 大謀網漁の番屋跡を過ぎて海が見えなくなると、また次第に山の中へと入ります。灯台へつづくと思われる横道に入ってみました。ここは今までにもましてさらに深い林道です。そぼ降る雨の中、どんどん奥へと何かに導かれるように歩きました。足元は少しずつぬ かり始め、軽装の私には少々つらく感じます。灯台のある二鬼城(にげしろ)は、前九年後三年の役で源頼義に敗れた安部貞任の残党が逃げのびて隠れ住んだと言われているところです。しばらくして立て看板を見つけました。見上げるとそこにはどっしりと灯台が立っていました。

 雨がその量を増してきたので、帰り道を急ぎます。両わきの林には木々の葉にあたる雨の音がありました。雨の音がこんなに気持ちのいいものだとは思いませんでした。


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