艶笑譚 ◆

性を笑いのめす

 

みなさんは艶笑譚をご存知ですか。読んで字の如し、 笑える艶話です。 落語の艶笑譚は比較的有名なようですが、意外に知られていないのが民話や昔話のそれです。庶民の性に関する珍談秘話で、日常の生活に根ざした題材を奇想天外な発想で語られる艶笑譚。俗に言う『エロ話』なのですが、どこにも嫌らしさがなく、おおらかで胃袋をくすぐるようなおかしさが隠されていて、これがなんともおもしろいのです。

私は以前から民話が好きで、旅行先のお土産屋さんなどで、その地域の民話を集めた小さな本を見つけては買っていました。ある日盛岡に出かけた際に、やはりお土産屋さんで偶然見つけた 『きき耳東北艶草紙』という本に出会ってから、いつしか気がつけば艶笑譚を探すようになっていました。 しかし、 それを見つけるのは容易ではありません。書物としてはあまり発表されていないようで、大きな書店で数冊目にするのがやっとです。


仙台に佐々木徳夫さんという、昔話の採集活動を40年以上も続けてこられた方がいます。 その数はなんと一万話にも及ぶそうです。 艶笑譚の性質は氏によれば 「短絡的に捉えて、 昔話は拝聴型とすれば、艶話は手作業をしながらの、 ながら型とでもいおうか、 多分に単調な仕事の厭忌止め的役割を担っていた」。語り継がれる昔話と、その場しのぎの艶話とでは、根本的に性質が違うのです。艶笑譚が書物として数少ないのはそういう理由からのようです。所詮はエロ話、心を開いた者にしか語られることのない艶笑譚。それでも佐々木氏は数多くの珍談秘話を採集されてきました。

艶笑譚について、氏はご自身の著書の中でこう語っています。「艶笑譚といっても×××という伏せ字でなければ書けないようなどぎついエロ文学と違い、話の中で性への冒険を楽しみ、他と比較できないセックスを話の中から垣間見て、健康的に楽しんでいるように思える。 語り手の巧みな話術なのか、 またもっと大きな広がりを持った男と女という基点に立って描いているからだろうか、こうした話につきまとう嫌らしさが払拭されている」さらに「共同体で生きる窮屈なきまりに縛られず厳粛なものであるはずの 『性』を艶話として笑いのめすことで、日常の生活やストイックな作業から解放させてくれる。そこに艶笑譚の役割を知った」と。

性に限って言えば、いつの世も男と女のしたいことに変わりはないのです。時代を超越したおかしさ、おもしろさを艶笑譚に見つけることができるのです。

ここでわたしの一番好きな艶笑譚を紹介します。これもやはり佐々木氏が採集されたもので『提灯ブラブラ』という一話です。

 

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ある家(え)にね、年寄(とっしょ)り夫婦がいだど。若者達(わげしたづ)ぁ、田畑さ仕事さ出はんで、いづもあどすべしながら子守してだどね。婆(ばん)つぁんはあどすべして、爺(ずん)つぁんは縁側の日向で子守こしてだど。

とごろが、いっても泣いでる孫が、おどなしがったつんだね。婆つぁんは台所(でぇどごろ)にいで、おら家(え)の爺つぁま、たまげで子守こ上手だな、はっぱり泣がせねでだましてるもんだな、ど思ってふしぎたででだど。ほうして、あどすべ終わってがら行ってみだどごろが、
    提灯ブラブラ   提灯ブラブラ
て、いだたど。何だや、爺つぁん、どっから提灯持ってきたべや、ど思って障子あげてみだれば、しなびふんぐり孫さあずげで、
    提灯ブラブラ   提灯ブラブラ
て、遊ばせでだったど。孫ぁ、爺つぁまのしなびふんぐりちょして喜んでだったどさ。そごさ婆つぁん行ってね、
「この爺つぁまも大概
(てえげえ)にしやがれ。どごに孫さ小汚ねえふんぐりあずげで、提灯ブラブラもあんめちゃ」て、ごっしゃいだど。
「婆、良がんべちゃ、 おどなしぐしてるもの。なに、 良がんべちゃ」 て言ったれば、 婆つぁんが、
「爺つぁますっこったら、おれもすっから」て、ぐらっと尻
(けつ)ひったぐって、
    お獅子バクバク   お獅子バクバク
て言
(し)たれば、孫ぁ動転して、ワーッと泣ぎ出したど。
「婆や、 婆の物おっかねつうがら、早ぐすめ。すめ」て言ったどさ。

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★参照…『みちのく「艶笑・昔話」探訪記』『みやぎ艶笑風流譚』(共に佐々木徳夫著・無明舎出版)

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